自分戦略研究室 Book Review(6)
自分戦略のプラン作成の参考にしてほしい6冊
2004/12/28
自分戦略とは一般的な言葉に置き換えるとキャリアビジョンを描くこと。そこで重要なのは、何のために働くのか、さらには自分の生き方・生きざまともいえる。ある意味ではそれは、言葉としては陳腐化してしまった感もある「自分探し」というものなのかもしれない。
自分自身は何者であるのか、そしてどこへ向かおうとしているのか、あなたはどんなことに興味があり、どんな考え方をする人なのか。そしてどうありたいのか。自分自身に対して、こうした素朴な、それでいて根源的な問いにあなたは答えることができるだろうか。
常に考える必要はないが、たまに自分戦略というもの、それをどう構築すればいいか、そして働き方、といったことを考えてみてもいいだろう。
今回の書評は、@IT自分戦略研究所に関係する3人に、そうした自分戦略にかかわる書籍を2冊ずつ紹介してもらった。ぜひ参考にしてほしい。
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スローキャリア――勝つことだけがキャリアじゃない |
スローキャリア 上昇志向が強くない人のための生き方論 高橋俊介著 |
「僕はテニスが趣味です。でも、どうして勝たなければいけないのか分からなくなってしまうことがあります。僕は白球を打ち合うのが楽しいのであって、試合に勝ちたいわけではないのですから」。春に開催されたキャリアカウンセラー大会での著者の講演は、こんな談話から始まりました。
民間・公共の機関、企業内人事など、それぞれの立場でキャリアカウンセリングを行う大会の出席者は皆、この「なぜ勝たなければいけないのか」という問いに、思わず考え込んでしまったのでした。
そもそも、人はなぜ勝たなくてはいけないのか。勝つとは何なのか、勝ち負け以外の価値観もあるのではないか。そんな思いを漠然と抱いている方、実は多いのでは。本書はそんな勝ち負け以外の価値観――「こだわり」であったり、「自分らしさ」であったりと、モチベーションをドライブさせる動機は人それぞれです――を大切にしたい人のキャリアの築き方について説いています。
どのようにorganzationは有効であること
本書のタイトルである「スローキャリア」の「スロー」とは、ファストフードの対極の考え方として生まれた「スローフード」のスローと同じものです。食という人間の根源的な喜びの分野に対して、効率や数字という目的合理・上昇志向的な物差しを当てはめたファストフード。それに対して、人間らしい食のスタイルやこだわりを大切にしよう、と提唱されたのがスローフードです。
スローキャリアとスローフード。どちらも数字に表れない部分や自分の「こだわり」を大切にしよう、という考え方です。味よりもスピードや効率を重視する食事よりも、自分が心地よいと思える環境で美味しいと思えるものを味わいたいという思い。この「食事」の部分を「仕事」や「キャリア」に置き換えると、「スローキャリア」の基本概念が理解しやすくなります。
気を付けなければいけないのは、スローキャリアという考え方は、自分の好きなことだけをやっていればよい、という気ままな生き方を推奨しているのではないことです。あくまで自律的に自分のキャリアをつくっていくことが大切だ、ということです。高い目標を掲げ、それに向かって努力・達成することにやりがいを感じる人もいるし、自分が納得できる「こだわり」を追求して、その結果に成果が付いてくる人もいるでしょう。
あなたはどんなときに喜びを感じますか。将来のキャリアを考えるとき、自分のこだわりや喜びのスタイルを知ることが必要です。
ロッカーに見る自分戦略 |
KISS AND MAKE-UP ジーン・シモンズ自伝 ジーン・シモンズ著、大谷淳訳
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本書は、ジーン・シモンズというアメリカのロックスターの自叙伝です。英語も話せなかった移民で母子家庭に育った少年が、いかにしてトップスターの座に上り詰めたのか、という正統派のアメリカンドリームのお話です。アメリカンドリームですから、そこにはもちろん「成功したいという強い意志」と「努力」が欠かせません。また、成功を勝ち取ってからも「不断の努力をし続けること」も必要です。ここまででしたら、ありがちな「スター本」でしかありません。
しかし自分戦略的見方をすると、シモンズ氏の生きざまは、自己実現のための1つの提案と読むことができます。彼が何を考え何を行ってきたのか……。
この本には、自分の思いを実現させるための普遍のエッセンスが盛り込まれています。それは例えば「常に新しいことにチャレンジし続けること」だったり、「アンテナを広く張り多くのことを吸収すること」だったり、「幅広い人脈をつくること」だったりします。そこには一見彼の本業とは関係ない分野のことも多く含まれますが、後々これらの行動が、新たな可能性のきっかけとなってきます。
また彼は、いままで誰もしなかったことにチャレンジすることを恐れませんでした。ステージで火を吹いたり、血のりを吐いたり。いまでは珍しくないメイクを始めたのも彼らです。編集者の経験をいかしてオリジナルマガジンを作り、そこから広がってノベルティグッズの制作、映画出演、とメディアミックスでのマーケティング戦略を始めたのも、実は彼らが初めてです。そしていつしか彼らのバンド――KISSは、音楽を超えた「社会現象」にまでなったのでした。
「可能性」を自らつくり、そしていざ「運(チャンス)」がやってきたときに、それに応えられる自分でいること。未知へのチャレンジを恐れないこと。ITエンジニアとロックスター、ジャンルこそ違えども見習う点は多々あるのではないでしょうか。
なぜインセンティブプログラムを実施
記録から始める自分戦略 |
1日3分「夢」実現ノート 岡崎太郎著 |
「PDCAサイクル」とは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)という順序で絶え間なく改善していくやり方を表現する言葉です。業務品質だけでなく、自分戦略を立てるうえでも「使える」考え方ですよね。
では、この中で最も重要な部分は何でしょうか。
それはPでもAでもなく、「サイクル」という部分。サイクルという考え方の素晴らしさは、俗にいう「複利の効果」に似ています。「先月よりも1%だけ自分を伸ばしていく」ことを毎月行っていくと、2倍に伸ばすには8年4カ月(100カ月)ではなく、6年(72カ月)で済むという論理です。
しかし実際は、多くの場合「Plan」でつまずいてしまいます。
「やりたいことがよく分からない」
「目標がないのに計画なんて立てられない」
だからサイクルが始まらない。でも大事なのはサイクルを回すことで、Planを立てることだけじゃない。ということは……?
そう、Doから始めればいいんです。夢と関係あろうがなかろうが、誰でも日々生活しています。その記録を付けることから始めるのです。心に思ったこと、目に留まった情報、浮んだアイデア……。その中からPlanの種を探していこうというのがこの本のやり方です。
実は偶然にも、私も本書と似たやり方で記録を付けていたので、この本のメッセージに共感できました。自分でノートを付けてまず発見したのは、人間というのは1日のうちになんと多くのことを思い、考えているか、そして忘れてしまうかということ。
そしてもう1つは、そうはいっても繰り返し出てくる「断片」があること。1つひとつはアイデアとも夢ともつかない「断片」であっても、寄せ集めてみると実は大きなテーマでくくれたりします。
「自分探し」などといって考え込まず、動き続ける。手を止めず書き続ける。試して損はありませんよ。
「アイデアが出ない」が口グセのあなたに |
チャンスを広げる思考トレーニング ロザモンド・ストーン・ザンダー、ベンジャミン・ザンダー著、田中志ほり訳 |
すべての人が必ず持っているもの、それが「思考の癖」です。思考の癖あるいは「習慣」は、個々の判断に掛ける負担を減らし、判断のスピードを上げ、より多くのことを考え・こなすために欠かせないものです。日々の服やランチのメニューをいちいち「ゼロベースで発想」していたら時間がかかってしょうがないですよね。
しかし、時には「思考の癖」を取り払う必要があります。例えば転職を考えたとき。
ついつい
「いまの会社では『どう考えたって』自分の成長はない。だから『転職しかない』」
と考えてしまいます。
仮に誰かが
「そうですか?『こう考えて』みたことはありますか?」
「『転職しかない』といいますが『こういうやり方も』あるのでは?」
といってくれたとしても、
運動の在庫は何を意味するのでしょうか?
「理論的にはそれもあり得るけど、現実的には私の場合……」
なんて答えてしまいがち。
この本は、12の「ものの見方」を紹介しています。自分の思考の癖を意識しつつ論理的に考えることをクリティカル・シンキングといいますが、この本のやり方は芸術家的。実際、指揮者とセラピストがビジネス・スクールからの依頼で書いたということですから、芸術家によるビジネスマン向けの発想指南書とでもいったらよいでしょうか。
素晴らしいのは、常に可能性に着目するところ。例えば上述の「会社がイヤで転職」という人であれば、会社に「Aを付けて」みます。独善社長もA。日和見上司も無能先輩も、みんなAクラスの人材として接してみたら、何かが変わるでしょうか。そのAクラスの会社から転職するとしたら、どんな理由によってでしょうか。
別に、「相手を大事にすれば自分も大事にしてもらえる」といった教訓めいた話ではありません。「自分が会社にD評価を付けることで可能性を狭めてしまっているのではないか」ということを検証しているのです。
反射的に
「うちのワンマン社長がAだなんてことは『あり得ない』よ、なぜなら……」
と考えたあなたなら、この本を読んで得るものがあるかもしれません。
欠如する「働く自分への自信」とは |
ニート――フリーターでもなく失業者でもなく 玄田有史、曲沼美恵著
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「学生ではない。けれど就業もしていない」。これだけなら、厳しい経済環境下で就職活動中の若者たち、もしくは、働きはするが定職に背を向ける"フリーター"像が喚起される。以前ならそれで済ますこともできた。だが、本書により、この認識は根本的にあらためることが求められる。
著者は、すでに『仕事のなかの曖昧な不安――揺れる若年の現在』(2001年)で、若者の無業状況をめぐり十二分に刺激的な問題提起を行った。
同書が出版されたころには一般的な用語ではなかった「ニート」(NEET:Not in Employment, Education or Training)。だがこの言葉が2004年の「流行語大賞」(「ユーキャン流行語大賞」)にもノミネートされたように、今年ニートは突如人ロに膾炙(かいしゃ)することとなった。「働こうとしていないし、学校にも通っていない。仕事につくための専門的な訓練も受けていない」(本書)ニートたち。統計が教えてくれるのは、そのような「社会の入りロで立ち止まってしまった」若者が、25歳未満に限ってもいまや40万人も存在すること。「フリーター」や「パラサイト」について論じていたことが、もはや牧歌的にさえ感じられることだろう。
本書の使命は、実はニートの増大に対し警鐘を鳴らすことではない。「仕事のなかの曖昧な不安」がこれまでは若者の無業の広がりを、単に労働意欲の減退に由来するのではなく、労働市場の構造が若者の就業機会を奪っているとする労働経済学的視点が色濃かったのに対し、本書では、ニートの若者たちに取材し、「仕事のなかの曖昧な不安」となる言葉を多く採取している。いい換えれば、より内側からの視点を提供する。
内容を多く紹介できないのがもどかしいが、本書の出現により「職業についての情報」ではなく、「働く自分に対する自信」(本書)の欠如にこそ、ニート問題の本質があるという視点がもたらされた。「これが本当にやりたいことなのか」と自問しつつ働く若きエンジニア諸氏にとっても、遠くから届く激励や示唆の言葉となるはずだ。
自らの「旬」な能力に注目しそれを育てるために |
仕事のための12の基礎力〜「キャリア」と「能力」の育て方〜 大久保幸夫著
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「能力を育てるには年齢に応じた『旬』がある」と説く著者の、キャリアの自習書が本書だ。
どのような「能力」を、どのような「年齢」に育むべきなのか。それを12の基礎力に整理し説くのが、本書の特徴の1つだ。各「基礎力」、それが標準的に開発されるべき年齢と、また対人、対自己、対課題解決という重要な3能力のどれに属すものかをも併せて分類整理するという仕組みだ。
具体的に紹介しよう。例えば、「反応力(リアクション)」は対人能力の基礎中の基礎カで、10〜20代で標準的に開発されるべきという。同様にして「愛嬌力」(あいきょうりょく)や「楽天力」から始まり、「目標発見力」「継続学習力」「文脈理解力」「専門構築力」「人脈開拓力」などへと進む。すべては紹介しないが基礎力の何たるかは伝わるだろう。また、それぞれの開発されるべき標準年齢が示唆されているので、「これからでも取り組めることがあるか」と悩む読者には格好の指標となるだろう。
さて、読者の中には、このような「基礎力」はITエンジニアリング分野にも適用できるのかと懸念する向きもあるかもしれない。本書著者の、そして評者に共通する答えは、「Yes」だ。"ITエンジニアリング力"が特別なものだと考えすぎない方がよい。「企業が採用したい『人材像』が、業界を超えてひとつになってきた」(本書)ことは顕著だ。
重要であることは、本書で解説されるような、対人、対自己、対課題解決にかかわる基礎力(「氷山」モデルでは、海面下に隠れるコンピテンシーに相当するもの)を継続的に養成・発展させること。エンジニアリングという専門力もその1つの要素にすぎない。残念ながら会社はこれら基礎力を求めはするが、与えてくれるとは限らない。「自習」の重要性は高い。
本書は読者に、「自分にとって心地よい境地」で「自分の力が生かされている」状態を実現し、その結果として高いアウトプットを生み出したい、という動機を著しく刺激する。あおるのではない、自らの旬を意識させる肯定的なキャリア論といえる。
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